なんと15万人以上ものファンが「ホークスに残って」との嘆願書を送りました。
ぼくも、そのうちのひとりです。
インターネット経由ではありましたが、署名とメッセージを送りました。
しかし、ファンの願いは届くことなく、工藤投手は巨人にFA移籍してしまいます。
それから約2年ほどのあいだ、
ぼくは巨人のユニフォームを着て活躍する工藤投手を好きになれませんでした。
やがて自分が署名活動に参加したことも忘れ、
熱心にプロ野球中継を観ることもなくなっていきました。
そんなある日、驚くべきことが起こります。
なんと、当時住んでいたマンションの郵便受けに
工藤投手から住所と宛名が直筆で書かれたハガキが届いていたのです。
そのハガキには直筆のサインとともに、こんな言葉が書かれていました。
「マウンドで投げる47の後にいつもあなたの声援があったこと、
この5年間に感謝を込めてありがとうございます」
のちに聞いたところによると、巨人移籍後の工藤投手は
時間を見つけては、自分に嘆願書を送ってくれたファンの全員、
つまり15万人のファン全員に対して、このハガキを書いていたのだそうです。
ぼくがハガキを受け取ったのは署名活動から2年後のことでした。
きっと何年もかけて、コツコツと書かれていたのでしょう。
それからおよそ10年後、
ぼくは『40歳の教科書』という本の企画で
工藤投手にインタビューする機会に恵まれます。
ただただ「ようやくありがとうを伝えられる!」という喜びでいっぱいでした。
取材当日、ぼくは持参したハガキを差し出して、
できるだけストレートに感謝の言葉を伝えました。
工藤投手は照れを隠すように「おおっ!」とハガキを手に取ると、
ハガキを見つめたまま、誰に語るともなく語りはじめました。
「いやあ、懐かしいなぁ」
「ちゃんと持っててくれたんだね」
「おれさ、もう一枚も持ってないんだよ。書くばっかりでさ」
「うん、こうやって人から見せてもらったのは初めてだな」
「そうかそうか、うん。懐かしいよね」
「ありがとう、ありがとう」
自筆のハガキを手に、少しだけ恥ずかしそうに語るその笑顔は、
まるで旧友と再会した少年のようでした。